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  • 2024.09.09

子どもも大人もどんな立場の人も - 鈴鹿山脈音楽祭INABESTAX - 副院長より32

 こんにちは。副院長の森豊和です。残暑厳しい毎日ですが、体調崩されてはいないでしょうか。今回は、昨年秋よりいなべ市で開催されている音楽祭Inabestax(イナベスタックス)と、そのプレイベント「大安ノスタルジック音楽祭」の話をさせてください。

  プレイベントは、去る9月7日の土曜日に大安駅で催されたのですが、全ての人、特に障害や生き辛さを抱えている人にこそ触れてほしいという触れ込み通り、アクセスの良さに加え、客席にも日よけのテントを張り、子どもの避暑のためのプールも用意するなど、居心地の良さが最大限に考慮されていて、とても過ごしやすかったです。

 11月2日(土)の本祭も、子どもも高齢者も障がいのある方も、誰もが過ごしやすい環境での祝祭を提供してくれることと思います(会場のカフェ、イベントスペースのフジハブは、料理も美味しいし、ゆったり快適、すごしやすいお店です)。

 というわけで、いつも説明スタイル、西山君と遠藤さんという二人の精神科医の会話という形で紹介をさせてください。



「西山先生、それ、何の資料ですか? お祭りの企画書みたいな。鈴鹿山脈音楽祭イナベスタックス?」

  涼しくなってきた9月の早朝8時。医局で紙資料を広げてコーヒーを飲んでいる西山大介に、ちょうど出勤してきた遠藤凪が声をかけます。

「あ、遠藤先生。いなべ市職員の鈴木健仁さんが立ち上げた、音楽を中心としたアートのお祭りです。理事長宛に協賛企業向けの資料が送られてきていたんです。」

「後援に、いなべ市、いなべ市商工会、観光協会というのはわかりますけど、協力に、メリーゴーランド、あそびじゅつって! 四日市の絵本屋さんですよね。わたし、江國香織さんの講演や寺尾紗穂さんのライブで行ったことがあります。」

「当日会場で、メリーゴーランドによる絵画展示「名曲アルバム ソウルのたましい」と、ステージ転換ごとに、美術講師兼ギタリスト、重盛貴夫(ペンギン)さんによるギター読み聞かせ紙芝居があるそうです。」

「ギター読み聞かせ? ブルース紙芝居と題されてますね。ブルースを弾きながら歌詞の内容ごとに絵を描いて、紙芝居にしてめくっていく。簡単なようで、誰もやろうとは思わない!」

「想像するだけでワクワクしますね。重盛さんの紹介文を読むと ”化石を作るために、手羽先を焼いて食べて骨を埋めたりするようなことを、日々、子どもたちとワイワイ言いながら、楽しく遊んでいる” って。」

「へえ、それって西山先生の診察みたいですね(笑)」

「どういう意味? 子どもといえば、本祭のオープニングに大安寿太鼓に加えて、(北勢町山郷重度障害者生活支援センター)あじさいの家の皆様による「キラキラ・チャレンジド・オールスターズ」による歌と踊りと書いてあります。
 昨年の本祭で、会場の多目的トイレにユニバーサルシートはあるかという問い合わせをいただいて、それをきっかけに交流が始まって、今回は出演者として来てもらうことになったとか。」

「なんだか嬉しくなるエピソードですね。他にも、この資料、読んでいて、いちいちクスリとさせられます。最初は「うるさい音楽は嫌いだ」と言っていた店主さん。主催者が足繁く店に通っていたら、当日会場に遊びに来てくれた!とか。」

「うん。やはり、人と人とのつながりですからね。私も9月7日のプレイベント「大安ノスタルジック音楽祭」見てきました。大安駅の駐車場でこじんまりと。主催者、出演者の許可をもらって短いライブ映像も。」



オーセンティック昭和歌謡スカバンド、モノポリーズと、誰が言ったか、伊勢のボブ・ディラン、2019年にはフジロックにも出演されたシンガー・ソングライター外村伸ニさん(会場の雰囲気が伝わるよう、複数のライブ映像がまとめてあり、矢印で選択できます)”



一通り視聴しながら、遠藤凪が歓声を上げる。

「わあ!モノポリーズと外村伸二さん、どちらの歌も、まるで触れられそうなリヴァーブがありますね。モノポリーズのがあこさんは知ってます。メリーゴーランドの店員さんでしたよね。例えがよいかわからないけれど、子どものころ、お母さんと遊園地に行った時のようなイメージが浮かびます。」

「があこさんの声は良い意味でのタイムスリップ現象を誘発します(注:自閉スペクトラム症に特徴的な記憶の想起)。モリタさん、10年以上お会いしてないのに向こうから気づいてくれて嬉しかったなあ。外村伸二さんのコーヒーの歌を聴いていたら、無性に喫茶店のホットコーヒーが飲みたくなりました。コーヒーカップの手触りや、喫茶店の雰囲気が思い出されて。」

「外村さんは伊勢のおかげ横丁辺りで実際に喫茶店を営まれてるんですね。しかし、夜とは言え、まだ暑い日だったのに(笑)そういえばお子さん、小学生ですよね。大丈夫でした?」

「子どもやお年寄りへの配慮も、ちゃんとしています。ステージだけでなく、客席にも日よけテントを張って、子どもが遊ぶビニール・プールまで用意されてました。子どもたちは、メダカ掬いしたり、かき氷食べたり、他の子たちとプールの水やホースでバシャバシャやって、さらにうまいタコ焼きやケバブほおばって大喜びです。
 快適に遊びすぎて、夜店でしてもらった水性ネイルがはがれちゃって、もう一度色違いで直してもらってました。この出店者さんですが。」

と、西山がスマートフォンでInstagaramのアカウントを示す。

「夜店で子ども向けネイルなんてあるんですね。と思ったら、このケアビューティスト、西村美加さん(【andMe.】)は、看護師でもあって、介護美容、フクシネイルとして、例えばデイサービス等で高齢の方に施術したりされてるんですね。」

「肥厚爪とかは、精神科の長期入院患者ではしばしば問題になりますしね。痛くて歩けないって。そういった医療的見地を置いておいても、例えば車椅子でどこへ行くにも不自由な高齢者の方にネイル施術することで、その場にいながら、いっときでも楽しんでもらえたら、大きな意味があると思います。」

「手元で楽しめるからいいですよね。デイサービスや老人ホームでネイル、ってのは考えたこともなかったです。医療福祉とカルチャーは、いろんな視点で切り取れますね。」

たかがネイルって思う人もいるかもしれないけど、小さな子どもや、動けない高齢者にとっては別世界へのドアになったりします。絵画だって、音楽だって、もちろん絵本も。
 有名なアーティストが出るイベントとか、高い商品とかである必要はないと思います。その人にとって価値のあるものであれば、お祖母ちゃんが作ってくれたクマのヌイグルミとか、友達と集めたセミの抜け殻とか、身近なものが、何より支えになったり、新しい可能性のドアになるかもしれない。

「そして、その可能性を開くためには、人と関わること、世界と出会う場は大切ですよね。」

「だからINABESTAXのようなイベントは続いてほしいです。有名なアーティストでなくても、と言いましたけど、それも言葉のあやで、昨年も今年も、INABESTAXに出演するミュージシャンは実績や定評のある素晴らしいパフォーマンスをする方々ばかりです。それはさっきのライブ映像でもわかりますよね。イベントの出店者も、飲食、衣服雑貨、ネイルのようなサービスなど様々ですが、地域密着の親密さがあって安心できます。」

「西山先生は患者さんやご家族に、よくおっしゃいますよね。ただ、話す、挨拶するだけでもいい。一緒に笑う、泣く、あるいは歌う、踊るのでもいい。空間を共有するだけでかまわない、みたいなこと。例えば、人に出会うとき、新しい場所に通うとき、仕事に就くとき、様々な節目に。」

少し熱のこもった西山に、目を細めて笑いながら、遠藤凪は淡々と付け足す。

「ええ。僕も新しい人に会うのはためらいます。INABESTAXの主催者もどんな怖い人かもしれないって思ったし(笑)。でも、全然そうじゃありませんでした。
 うまくお話しできなくてもいいんです。言葉って人をだますこともできますしね。その場で、空間を共にして、伝わるものの方が大事です。昨年の本祭と、今年のプレイベントを体験して、主催者と会って、やっぱり応援したくなりましたよ。」
 こんにちは。副院長の森豊和です。残暑厳しい毎日ですが、体調崩されてはいないでしょうか。今回は、昨年秋よりいなべ市で開催されている音楽祭Inabestax(イナベスタックス)と、そのプレイベント「大安ノスタルジック音楽祭」の話をさせてください。

  プレイベントは、去る9月7日の土曜日に大安駅で催されたのですが、全ての人、特に障害や生き辛さを抱えている人にこそ触れてほしいという触れ込み通り、アクセスの良さに加え、客席にも日よけのテントを張り、子どもの避暑のためのプールも用意するなど、居心地の良さが最大限に考慮されていて、とても過ごしやすかったです。

 11月2日(土)の本祭も、子どもも高齢者も障がいのある方も、誰もが過ごしやすい環境での祝祭を提供してくれることと思います(会場のカフェ、イベントスペースのフジハブは、料理も美味しいし、ゆったり快適、すごしやすいお店です)。

 というわけで、いつも説明スタイル、西山君と遠藤さんという二人の精神科医の会話という形で紹介をさせてください。



「西山先生、それ、何の資料ですか? お祭りの企画書みたいな。鈴鹿山脈音楽祭イナベスタックス?」

  涼しくなってきた9月の早朝8時。医局で紙資料を広げてコーヒーを飲んでいる西山大介に、ちょうど出勤してきた遠藤凪が声をかけます。

「あ、遠藤先生。いなべ市職員の鈴木健仁さんが立ち上げた、音楽を中心としたアートのお祭りです。理事長宛に協賛企業向けの資料が送られてきていたんです。」

「後援に、いなべ市、いなべ市商工会、観光協会というのはわかりますけど、協力に、メリーゴーランド、あそびじゅつって! 四日市の絵本屋さんですよね。わたし、江國香織さんの講演や寺尾紗穂さんのライブで行ったことがあります。」

「当日会場で、メリーゴーランドによる絵画展示「名曲アルバム ソウルのたましい」と、ステージ転換ごとに、美術講師兼ギタリスト、重盛貴夫(ペンギン)さんによるギター読み聞かせ紙芝居があるそうです。」

「ギター読み聞かせ? ブルース紙芝居と題されてますね。ブルースを弾きながら歌詞の内容ごとに絵を描いて、紙芝居にしてめくっていく。簡単なようで、誰もやろうとは思わない!」

「想像するだけでワクワクしますね。重盛さんの紹介文を読むと ”化石を作るために、手羽先を焼いて食べて骨を埋めたりするようなことを、日々、子どもたちとワイワイ言いながら、楽しく遊んでいる” って。」

「へえ、それって西山先生の診察みたいですね(笑)」

「どういう意味? 子どもといえば、本祭のオープニングに大安寿太鼓に加えて、(北勢町山郷重度障害者生活支援センター)あじさいの家の皆様による「キラキラ・チャレンジド・オールスターズ」による歌と踊りと書いてあります。
 昨年の本祭で、会場の多目的トイレにユニバーサルシートはあるかという問い合わせをいただいて、それをきっかけに交流が始まって、今回は出演者として来てもらうことになったとか。」

「なんだか嬉しくなるエピソードですね。他にも、この資料、読んでいて、いちいちクスリとさせられます。最初は「うるさい音楽は嫌いだ」と言っていた店主さん。主催者が足繁く店に通っていたら、当日会場に遊びに来てくれた!とか。」

「うん。やはり、人と人とのつながりですからね。私も9月7日のプレイベント「大安ノスタルジック音楽祭」見てきました。大安駅の駐車場でこじんまりと。主催者、出演者の許可をもらって短いライブ映像も。」



オーセンティック昭和歌謡スカバンド、モノポリーズと、誰が言ったか、伊勢のボブ・ディラン、2019年にはフジロックにも出演されたシンガー・ソングライター外村伸ニさん(会場の雰囲気が伝わるよう、複数のライブ映像がまとめてあり、矢印で選択できます)”



一通り視聴しながら、遠藤凪が歓声を上げる。

「わあ!モノポリーズと外村伸二さん、どちらの歌も、まるで触れられそうなリヴァーブがありますね。モノポリーズのがあこさんは知ってます。メリーゴーランドの店員さんでしたよね。例えがよいかわからないけれど、子どものころ、お母さんと遊園地に行った時のようなイメージが浮かびます。」

「があこさんの声は良い意味でのタイムスリップ現象を誘発します(注:自閉スペクトラム症に特徴的な記憶の想起)。モリタさん、10年以上お会いしてないのに向こうから気づいてくれて嬉しかったなあ。外村伸二さんのコーヒーの歌を聴いていたら、無性に喫茶店のホットコーヒーが飲みたくなりました。コーヒーカップの手触りや、喫茶店の雰囲気が思い出されて。」

「外村さんは伊勢のおかげ横丁辺りで実際に喫茶店を営まれてるんですね。しかし、夜とは言え、まだ暑い日だったのに(笑)そういえばお子さん、小学生ですよね。大丈夫でした?」

「子どもやお年寄りへの配慮も、ちゃんとしています。ステージだけでなく、客席にも日よけテントを張って、子どもが遊ぶビニール・プールまで用意されてました。子どもたちは、メダカ掬いしたり、かき氷食べたり、他の子たちとプールの水やホースでバシャバシャやって、さらにうまいタコ焼きやケバブほおばって大喜びです。
 快適に遊びすぎて、夜店でしてもらった水性ネイルがはがれちゃって、もう一度色違いで直してもらってました。この出店者さんですが。」

と、西山がスマートフォンでInstagaramのアカウントを示す。

「夜店で子ども向けネイルなんてあるんですね。と思ったら、このケアビューティスト、西村美加さん(【andMe.】)は、看護師でもあって、介護美容、フクシネイルとして、例えばデイサービス等で高齢の方に施術したりされてるんですね。」

「肥厚爪とかは、精神科の長期入院患者ではしばしば問題になりますしね。痛くて歩けないって。そういった医療的見地を置いておいても、例えば車椅子でどこへ行くにも不自由な高齢者の方にネイル施術することで、その場にいながら、いっときでも楽しんでもらえたら、大きな意味があると思います。」

「手元で楽しめるからいいですよね。デイサービスや老人ホームでネイル、ってのは考えたこともなかったです。医療福祉とカルチャーは、いろんな視点で切り取れますね。」

たかがネイルって思う人もいるかもしれないけど、小さな子どもや、動けない高齢者にとっては別世界へのドアになったりします。絵画だって、音楽だって、もちろん絵本も。
 有名なアーティストが出るイベントとか、高い商品とかである必要はないと思います。その人にとって価値のあるものであれば、お祖母ちゃんが作ってくれたクマのヌイグルミとか、友達と集めたセミの抜け殻とか、身近なものが、何より支えになったり、新しい可能性のドアになるかもしれない。

「そして、その可能性を開くためには、人と関わること、世界と出会う場は大切ですよね。」

「だからINABESTAXのようなイベントは続いてほしいです。有名なアーティストでなくても、と言いましたけど、それも言葉のあやで、昨年も今年も、INABESTAXに出演するミュージシャンは実績や定評のある素晴らしいパフォーマンスをする方々ばかりです。それはさっきのライブ映像でもわかりますよね。イベントの出店者も、飲食、衣服雑貨、ネイルのようなサービスなど様々ですが、地域密着の親密さがあって安心できます。」

「西山先生は患者さんやご家族に、よくおっしゃいますよね。ただ、話す、挨拶するだけでもいい。一緒に笑う、泣く、あるいは歌う、踊るのでもいい。空間を共有するだけでかまわない、みたいなこと。例えば、人に出会うとき、新しい場所に通うとき、仕事に就くとき、様々な節目に。」

少し熱のこもった西山に、目を細めて笑いながら、遠藤凪は淡々と付け足す。

「ええ。僕も新しい人に会うのはためらいます。INABESTAXの主催者もどんな怖い人かもしれないって思ったし(笑)。でも、全然そうじゃありませんでした。
 うまくお話しできなくてもいいんです。言葉って人をだますこともできますしね。その場で、空間を共にして、伝わるものの方が大事です。昨年の本祭と、今年のプレイベントを体験して、主催者と会って、やっぱり応援したくなりましたよ。」